世界ハッカー犯罪白書(文藝春秋刊)

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世界ハッカー犯罪文書
世界ハッカー犯罪白書
 「コンピューターハッカー」という言葉の定義は何だろう。いまでは、「コンピューターを隠れ蓑にして、人の知らないうちに何かの結末をもたらすような人」、というようなかなり広義なイメージで捉えられていることが多いと思う。いわずものがな、「ハッカーはコンピューターに対して堪能で、オタク的興味を持つ人々」であって、犯罪行為や不正行為に「もとより手を染めている」とうプロポシションを含有するものではない。
 この本は、アメリカ編、東欧・アジア編、西ヨーロッパ編と地域ごとにわけ、前者の広義なハッカー定義に従って起こった事件・犯罪のエピソードを少しずつ拾ったもの。有名なケヴィン・ミトニックのような例も載っているが、ソーシャル・エンジニアリングを使ってシステム変更中の銀行ATMから金銭を詐取しまくった夫婦の話など、かならずしも「ハッカー」が介在して行われた事件だけを扱っている訳じゃない、
 一つ一つのエピソードも比較的短くまとめられていて、とてもよみやすい。ハッカーに関する書籍は『カッコウはコンピューターに卵を産む』や『リトル★ハッカー 「ハッカー」になった子供たち』などたくさんの本を読んできたんだけど、その中では一番多数の例が載っているものの、その手口や方法、生涯などのエスノグラフィーをはしょって書いてしまっている分、深みにはあまりかける。一番詳しく書いてあったのは、前述のハッカー「ケビン・ミトニック Kevin Mitonik(この名前でGoogleで検索をかけると、それなりにヒットするはず)」の物語だった。
 ハッカーとそれらを追いつめるセキュリティ技術者の戦い、という点では、『カッコウはコンピューターに卵を産む』が一番詳しい。どんなコマンドを使ってシステムに進入し、どのような方法で匿名の人間になるかなどの方法が、著者であるクリフォード・ストールの日記形式で事細かに表現してあるからね。まあ、冷戦当時の話で、KGBが西側の情報をほしいがためにハッカーを雇いハッキングさせていた、という大きな事件であったわけだから、これぐらいの扱いはしても当然なんだろうけど。
 いずれにしても、『世界ハッカー犯罪白書』は、「薄く広く」コンピューターが利用された犯罪について紹介していて、その知識を得るというよりもむしろ、コンピューターへの過度の依存と放置がいかなる危険を招くか、ということについて、読みやすい文体で警鐘を鳴らしたもの、と考える方がだとうかもしれない。そして、コンピューターを使った犯罪は、ほとんどの場合、プログラムのミスやその他の監査により、おおむねの容疑者を断定することができること。それを示すことで、コンピューター犯罪の抑止力を高めるために書かれたものと考えることもできる。
 そういう意味では、短編小説の寄せ集め、みたいな体裁をとっているこの本は、非常に読みやすい。つくづく、そういう能力をもっとうまい方向に使えればなあ、と思ったりするものだけれど…

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